PCSK9阻害薬は静脈血栓塞栓症リスクを減じた。
LDLコレステロールの静脈血栓塞栓症リスクは不確定で、関係性を示した報告もあれば関係性がないとの報告もあります。
また、CRPやLp(a)と静脈血栓塞栓症の関係を示した報告もあります。
この研究ではPCSK9阻害薬と静脈血栓塞栓症の関係が評価されました。
PCSK9阻害薬の臨床効果が検討された、FOURIE trialとODESSEY OUTCOMESのデータを用いて解析が行われました。
そのため動脈硬化疾患や急性冠症候群患者のデータが用いられています。
一次エンドポイントは静脈血栓塞栓症の発生とされました。
静脈血栓塞栓症と関連する遺伝子変異のリスクスコアが用いられ、上位1/3はhigh genetic riskに分類されました。
それぞれのPCSK9阻害薬とプラセボを比較しています。
結果
FOURIER trialではエボロクマブ群、プラセボ群それぞれにおいて平均年齢 63歳、75%が男性、39%がBMI 30以上、23%が心不全、37%が糖尿病でした。
中央値でLDLコレステロールは92 mg/dL、Lp(a)は37 nmol/Lでした。
観察期間の中央値は2.2年でした。
128人が静脈塞栓症を発症し、内訳は72人が深部静脈血栓症、56人が肺塞栓症でした。
静脈血栓塞栓症はエボロクマブ群 0.45% vs プラセボ群 0.63% (HR 0.71, 95%CI 0.50-1.00, p=0.05)でした。
開始1年間は有意差はありませんが、1年以降ではHR 0.54(95%CI 0.33-0.88, p=0.014)とエボロクマブによる静脈血栓塞栓症のリスク低下を認めました。
ODESSEY OUTCOMESではPCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症のHR 0.67 (95%CI 0.44-1.01, p=0.06)で、メタアナリシスではHR 0.69 (95%CI 0.53-0.90, p=0.007)でした。
いずれの試験とメタアナリシスでもPCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症リスクの低下を認めました。
ベースラインのLDLコレステロールやLp(a)を中央値で分けた解析も行われました。
LDLコレステロールを中央値で分け、PCSK9阻害薬群とプラセボ群と静脈血栓塞栓症発生率を比較しましたが大きな差はありませんでした。
一方でLp(a)を中央値で分けた場合、High Lp(a) groupでプラセボと比較しPCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症のリスク低下を認めました(HR 0.52, 95%CI 0.30-0.89, p=0.017)。
また、遺伝子変異のリスクスコアが上位1/3のhigh genetic risk groupでプラセボと比較しPCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症のリスク低下を認めました(HR 0.45, 95%CI 0.21-0.95, p=0.035)。
この研究ではPCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症リスクの低下を認めました。
PCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症減少効果はLDLコレステロールよりもLp(a)高値の群で顕著でした。
スタチンはLp(a)低下作用はなくLDLコレステロールとhs-CRPを低下し、PCSK9阻害薬はhs-CRP低下作用はなくLDLコレステロールとLp(a)を低下させます。
静脈血栓塞栓症リスク低下の効果はスタチンのhs-CRP低下、PSCK9阻害薬のLp(a)低下作用によるものではないかと考察されています。
現在Lp(a)低下作用を有するRNAアンチオリゴヌクレオチドの臨床研究が進められており、静脈血栓塞栓症へのアセスメントとして検証されるかもしれません。
Limitationとしては、前向き研究でないこと、動脈硬化性疾患患者が対象であったこと、遺伝子解析はヨーロッパの方のみであったことが挙げられています。
まとめ
この研究ではPCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症リスクの低下を認めました。
Lp(a)低下と静脈血栓塞栓症リスク低下の関係が示されました。
The Effect of PCSK9 (Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9) Inhibition on the Risk of Venous Thromboembolism. Circulation. 2020; 141: 1600–1607.