狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患患者において脂質低下療法を行う目的は冠動脈疾患の再発予防と予後改善です。
治療のためには食事や運動などの生活習慣の改善に加え、スタチンを中心とした薬物療法を行います。
近年ではスタチンに加え、エゼチミブやPCSK9阻害薬の併用が可能となりました。
LDL(悪玉)コレステロールのさらに低下することができるようになり、薬物療法によるLDLコレステロールの低下に伴う心血管イベント再発抑制効果が複数の臨床研究によって証明されてきました。
日本の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、冠動脈疾患患者のLDLコレステロール管理目標値はこれまで100 mg/dL未満とされていました。
しかし、直近の改定で急性冠症候群や家族性高コレステロール血症などハイリスク症例では、70 mg/dL未満を考慮するべきでしています。
欧州のガイドラインで、冠動脈疾患患者においてはLDLコレステロールの管理目標を55 mg/dL未満とさらに厳格化しました。
脂質管理の重要性
冠動脈プラークの破綻部分や狭窄形成部分は冠動脈疾患発症の原因となります。
冠動脈ステントの留置をはじめとする冠動脈インターベンション(PCI: percutaneous coronary intervention)が一般的になり、予後は改善しました。
しかしPCI施行後の不適切な脂質管理は、冠動脈における血栓症や動脈硬化性病変の再発につながる可能性が示唆されています。
冠動脈ステント留置部位に生じる新生内膜による新規の動脈硬化性病変(neoatherosclerosis)の発生は、LDLコレステロール値と関連することが報告されています。
また、PROSPECT試験では急性冠症候群患者を対象とした観察研究で、約3年間の追跡期間で20.4%の心血管イベントが発症し、12.9%が責任血管、11.6%が新たな病変に起因するイベントであったと報告しました。
冠動脈疾患患者では、責任病変および非責任部位のいずれにおいてもプラーク進展抑制および安定化を図ることが重要です。
脂質管理に用いる薬剤
冠動脈疾患再発予防のためにはLDL(悪玉)コレステロールを中心とした脂質管理が重要です。
脂質低下療法に用いられる薬剤について記載します。
スタチン
スタチンによる冠動脈疾患の再発効果は1994年に発表された4S試験によって最初に証明されました。
それ以降複数のエビデンスが存在します。
近年日本で行われたREAL-CAD試験は、 安定冠動脈疾患患者を対象にピタバスタチン高用量(4 mg)群と低用量(1 mg)群に無作為に割付け、高用量群は低用量群よりLDLコレステロール値を低下させ心血管イベント発生を抑制させました(4.3% vs. 5.4%, p=0.001)。
またESTABLISH試験やASTEROID試験はスタチンによるプラーク容積減少効果を示しました。
日本及び欧州のガイドラインいずれにおいてもストロングスタチン(アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン)の最大用量での投与を推奨しています。
スタチンによる副作用は肝機能障害、CK上昇や筋脱力などのミオパチー様症状、血中および尿中ミオグロビン上昇を伴う横紋筋融解症が報告されています。
またスタチンだけでは十分なLDLコレステロールの低下を得られない症例には、エゼチミブやPCSK9阻害薬を併用し、適切な脂質管理を行う必要があります。
エゼチミブ
IMPROVE-IT試験は急性冠症候群患者を対象にスタチン単独群とエゼチミブ併用群に無作為に割付け、エゼチミブ併用群はLDLコレステロールを有意に低下させ(53.2 mg/dL vs. 69.5 mg/dL; p<0.001)、心血管イベントを有意に低下(32.7% vs. 34.7%; p=0.016)させたことを報告しました。
日本及び欧州のガイドラインいずれにおいても、スタチンでLDLコレステロールの管理目標に達しない症例に対するエゼチミブの併用を推奨しています。
PCSK9阻害薬
PCSK9阻害薬は強いLDLコレステロール低下作用があります。
最大用量のスタチンでもLDLコレステロールの管理目標を達しない症例に用いられることが多いです。
PCSK9阻害薬はFOURIER試験やODYSSEY OUTCOMES試験により強力なLDL-C低下作用と心血管イベント抑制効果が証明されています。
PCSK9阻害薬は皮下注射製剤で、現在の薬価は高額です。
最大用量スタチンやエゼチミブを併用してもLDLコレステロールの管理目標値に達しない症例に対する投与が推奨されています。
Kuroda M, et al. The impact of in-stent neoatherosclerosis on long term clinical outcomes: an observational study from the Kobe university hospital optical coherence tomography registry. EuroIntervention. 2016; 12: e1366-e1374.
Stone GW, et al. A prospective natural-history study of coronary atherosclerosis. N Engl J Med. 2011; 364: 226-235.